RNA農薬の話

解説

どうも、kmです。
今回はたまたまTwitter見つけてかなり扱いがひどかったので、
実際のところどうなんだろうと思い、
「RNA農薬」について調べてまとめてみました。
↓動画版はこちら

RNA農薬とは?
まずは一つ記事を紹介します。
記事中で使用されている略語
RNA干渉(RNA interference:RNAi)

既存の化学農薬に比べ安全性が高いと期待されるRNA農薬。2030年頃までに実用化の可能性。

二本鎖RNAを害虫に投与しRNAiを誘導することで、害虫内の遺伝子の機能を阻害して駆除を目指すRNA農薬。駆除対象の害虫の特性に応じた遺伝子を発見・利用することで、対象害虫のみを防除することができる。また、RNA農薬で使われる人工遺伝子は体内の物質と同等で、RNAiを引き起こすかどうかは生物の種類によって異なる。狙った害虫だけに効果を起こすことができ、他の動植物に影響を与えにくいため、従来の化学農薬に比べて安全性が高い。また、化学農薬と違い耐性をもった害虫が現れにくいと見込まれている。

実用化に向けては、認可のための法整備が必要。国際的には2019年に経済協力開発機構(OECD)によりRNA農薬実用化のガイドライン策定会議が開かれている。規制のあり方についてはこれから議論されることになるが、2030年頃までに実用化される見通し。
https://agrinoki.com/archives/2638より引用

https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/team1-12.pdfより引用

RNA農薬はこれまでに使用されてきた化学農薬とは異なる新しい害虫防除法です。
これまでの化学農薬(パラコートなど)は害虫を除去することは出来ますが、
ヒトや環境への影響もそれなりに大きかったのです。
RNA農薬はその機序から安全性が高いと考えられています。

RNA農薬の最大の特徴は「害虫に対して経口的にそれを摂取させ、
害虫の特定の遺伝子の発現を抑制することで作用させる」
という点です。

なぜRNA農薬が必要なのか?
現在世界人口は爆発的に増えており、
それに伴う食糧不足が深刻な問題になっています。
そのため農作物の増産が必要となるわけですが、
およそ3分の1が病害虫によって失われているという状態です。
そのため、食料供給を増やすためこれへの対策が必須となっている状況です。
現在の害虫防除法は化学農薬に依存しており、
これは動物やヒトに対する安全性の問題や環境負荷が大きい、
害虫の耐性獲得という点で問題を抱えています。
この問題に対する回答として期待されているのがRNA農薬です。

RNA農薬はどのように作用するのか?
RNA農薬はRNA干渉(RNA interference:RNAi)法を利用したものです。

RNA干渉(RNAi)とは?
RNA干渉とは,2本鎖RNAが,いくつかのタンパク質と複合体を作り,相同な塩基配列をもつメッセンジャーRNAと特異的に対合し,切断することによって,遺伝子の発現を抑えてしまう現象である。RNA干渉のマシナリーは,生体内のさまざまな局面で重要な役割を担っている。ウイルス感染に対する防御機構や,ゲノム上を転移する動く遺伝子を抑制し,ゲノムの安定性を保つことにも関わっているようである。また,これまで見逃されてきた,マイクロRNAという短い2本鎖RNAが生体内でも多数発現しており,多くの遺伝子の発現調節をしていることも明らかになってきている。さらにRNA干渉は,遺伝子の機能を人為的に抑制することにも応用できるので,遺伝子機能解析の汎用性の高いツールとしても注目されている。ゲノムプロジェクトによってヒトをはじめとする多くの生物種の全遺伝子配列が決定されたが,その情報を利用し,個々の遺伝子にユニークな塩基配列を選択することにより,遺伝子機能を網羅的に解析することが可能になったといえる。すでに臨床的な治療へ応用することも検討されている。
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/story/newsletter/keywords/04/03.htmlより引用

要するに、特殊なRNAが特定の遺伝子発現を抑えてしまう現象のことです。
現在詳細なメカニズムは解明されていませんが、
RNAiは様々なことに関わっていると目されています。
この辺は今後の研究に期待ですね。

RNA農薬はどのようにして効く?
RNA農薬は昆虫の特定の遺伝子発現を抑制してやり、
「昆虫に対して致死的な影響を与えることで駆除を行う」
というコンセプトで作られています。

この時選択される遺伝子は昆虫特有のものにすることで
高い選択性が得られるため、安全性が高いと考えられます。

どのくらい安全性が高いか?
という点はあまり記述されてなかったので考察してみました。
RNA農薬で使用するRNAの塩基数にもよりますが、
基本的にはほぼ他の遺伝子には影響しないかと思われます。
20塩基ほどですらかなり一致する例は少ないので、
種特異的な遺伝子を狙い撃ちすることは難しくはないだろうなと思います。

ここまでの内容だと実態がちょっとイメージしにくいかと思いますので、
一つ研究を紹介します。

経口投与によるRNA干渉法を用いた害虫の早期食害停止の誘発に成功
https://www.nig.ac.jp/nig/ja/2020/09/research-highlights_ja/pr20200925.html

この研究はRNA農薬により24時間以内に食害停止が確認できたという研究です。
この時選択された遺伝子はアポトーシス阻害因子
(death-associated inhibitor of apoptosis protein 1; diap1)でした。

UCSC Genome Browserで確認してみたところ、
この遺伝子は確かにヒトでも存在してますが、
鳥類ですらそれなりに配列が違うみたいなので、
無脊椎動物である昆虫とはもっと違うと考えられます。
ということは、昆虫のこの遺伝子を阻害することで
ヒトに対して遺伝子発現の抑制が発生する確率はかなり低いように見えます。

ここから私が気になったことを調べてまとめた部分になります。
正直、今のところ気になる部分はあまり見つからなかったので、
ネット上に存在するRNA農薬を批判する内容の主張に対しての
私なりの回答といった要素が強いです。

先に私がRNA農薬に対して思ったことからです。

Q.RNA農薬で抑制する遺伝子が人体でも重要な働きを持っていて、それによる人体への影響はどうなのか?

A.昆虫からヒトまで保存されている遺伝子であれば
そもそも実用前の動物実験でよい結果は出ないはずなので、
ヒトに影響が出そうなものは実用化されないと思われます。
そもそも最初からヒトの遺伝子に相同性の高いものは
開発段階で検討すらされないはずです。

siRNAを用いる際にどうしても考慮する必要がある
「非特異的反応」についてですが、
そもそもRNA自体食物を摂取しているときに
大量に(RNA農薬の10000倍以上)摂取していて、
それによる健康被害などは今のところ観測されていない、
かつRNA農薬に含まれるRNAは微量であること、
それに加えてRNA分解酵素は人体においてそこら中に存在していること
を踏まえると、RNA農薬による健康被害は考えにくいかなと思うところです。
研究が進めばどうなるかはわかりませんが、
少なくとも今のところは化学農薬よりは影響は少なそうだと思います。

ネットで見つけた主張に対して

Q.RNAワクチンが逆転写されてDNAになってしまうという研究がありますがRNA農薬にはその危険はないのか?

A.スウェーデンでの研究でRNAワクチンの逆転写が発生している!という情報を見かけたのでこれについても触れておきます。

結論から言うと、この論文は間違ってはいません。
適切でないのはこれで騒いでいる方々です。
これはin vitroでの研究であり、これを根拠に
「人体に対しても逆転写が行われる」ということの証明にはなりません。
議論になるとすればin vivoの研究が出てからでしょう。
この段階で「人体に影響がどう」という話をするのは話が飛躍しています
ただ、この現象が人体で全く存在しないとは
断言はできませんが(しないという証明は無理な気がしますけど)、
人体に逆転写酵素が存在しない以上そうそう起こらないかと思います。

以下逆転写の論文です
https://www.mdpi.com/1467-3045/44/3/73/htm

最後に、「遺伝子組換え」が正しい表記です。
「遺伝子組み換え」とはその手の知識がある方は間違えないと思います…。
この表記を見かけたらそういう方が書いているかもしれません。

それでは今回はここまでにしたいと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

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